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相続人不存在における不動産の売買による所有権移転登記

相続人不存在とは
「相続人のあることが明らかでないとき」とは、
①相続人が存在しないとき
②相続人が存在していたが、相続放棄などにより、その全員が相続人でなくなったとき
の2つのパターンがあり、これを「相続人不存在」といいます。
相続人不存在における手続きの流れ
相続人のあることが明らかでないときは、その相続財産は法人とされ、相続財産法人が成立します(民法951条)。
相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。
※2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正により、「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。
相続財産清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、「相続財産清算人を選任した旨」及び「相続人は一定の期間内にその権利を主張すべき旨」を公告しなければならず、その期間は6ヶ月を下ることができません(民法952条2項)。
「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」があったときは、相続財産清算人は、すべての相続債権者及び受遺者に対し、2ヶ月以上の期間を定めて、「その期間内にその請求の申出をすべき旨」を公告しなければなりません。また、この期間は、「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」の期間内に満了しなければなりません(民法957条1項)。
「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」の期間内に相続人としての権利を主張する者がいないときは、相続人の権利が消滅するとともに、相続財産清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができません(民法958条)。
この段階で、「相続人不存在」が確定します。
相続人不存在が確定した場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は特別縁故者の請求によって、清算後残存する相続財産の全部または一部を分与することができます。この請求は、「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」の期間の満了後3ヶ月以内にしなければなりません(民法958条の2)。
なお、「特別縁故者」とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めてきた者、その他被相続人と特別の縁故があった者をいいます。
特別縁故者への相続財産の分与にて処分されなかった残余財産は、国庫に帰属します(民法959条)。
相続人不存在における不動産の売却手続きの流れ
上記のとおり、相続人不存在の相続財産は、最終的に国庫に帰属することから(民法959条)、その財産に不動産がある場合には、相続財産清算人は家庭裁判所の許可を得たうえで(民法953条、同28条)、これを売却して金銭にかえる必要があります。
相続人不存在における相続不動産の売却手続きの流れは以下のとおりです。
相続財産清算人において、家庭裁判所に対し不動産の売却許可の審判を申し立てます。
相続財産清算人による不動産の売却に際して、売買による所有権移転登記の前、もしくは同時に、所有権の登記名義人を「亡〇〇相続財産」とする「所有権登記名義人氏名変更」の登記を申請します。
登記申請書の記載例(抜粋)
登記の目的 ◯番所有権登記名義人氏名変更 ※1
原 因 年月日相続人不存在 ※2
変更後の事項 登記名義人
亡〇〇相続財産 ※3
申 請 人 (住所)亡〇〇相続財産清算人
弁護士〇〇 ※4
添付書類 登記原因証明情報 ※5
代理権限証明情報 ※6
登録免許税 不動産1物件につき1,000円
※1 登記の目的は「○番所有権登記名義人氏名変更」とします。
※2原因日は「登記名義人の死亡日」、原因は「相続人不存在」とします。
※3変更後の事項は「登記名義人 亡〇〇相続財産」とします。共有の場合には「共有者〇〇登記名義人 亡〇〇相続財産」とします。
※4 相続財産清算人による単独申請となります。
※5「相続財産清算人の選任審判書」の記載から、「相続人が不存在であること」及び「登記名義人の死亡年月日」が明らかでない場合には、これらを証する「戸籍(除籍)謄本」を登記原因証明情報として添付します(昭39.2.28民甲422号)。
※6 代理権限証明情報は、「相続財産清算人の選任審判書」のほか、「委任状(司法書士など代理人に手続きを依頼する場合)」を添付します。

家庭裁判所の不動産の売却許可の審判がおりたら、売買契約を締結のうえ、不動産の売買による所有権移転登記を申請します。
登記申請書の記載例(抜粋)
登記の目的 所有権移転
原 因 年月日売買
権 利 者 (住所)(氏名)
義 務 者 (住所)亡〇〇相続財産
(住所)亡〇〇相続財産清算人
弁護士〇〇 ※1
登記識別情報の提供の有無:無し ※2
登記識別情報を提供できない理由:
許可書を添付します
添付書類 登記原因証明情報
印鑑証明書 ※3
住所証明情報
代理権限証明情報 ※4
許可書 ※5
※1義務者欄には「(住所)亡○○相続財産」「(住所)亡○○相続財産清算人 弁護士○○」と併記します。
※2許可書を添付するため登記識別情報(または登記済証)の提供は不要です。
※3家庭裁判所発行の相続財産清算人の印鑑証明書を添付します。
※4代理権限証明情報として「相続財産清算人の選任を証する書面(選任審判書または相続財産清算人資格証明)」のほか「委任状(司法書士など代理人に手続きを依頼する場合)」を添付します。
※5 家庭裁判所の権限外行為(不動産売却)の許可審判書を添付します。