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相続人不存在における手続きについて~遺言書がないと国庫に帰属してしまいます

相続人不存在とは
「相続人のあることが明らかでないとき」とは、
①相続人が存在しないとき
②相続人が存在していたが、相続放棄などにより、その全員が相続人でなくなったとき
の2つのパターンがあり、これを「相続人不存在」といいます。
相続人不存在となる具体的なケース
相続人不存在となる具体的なケースとして、大きく3つがあげられます。
1.法定相続人がいないケース
法定相続人がいないとは、亡くなった方に以下の人がすべていないことをいいます(民法887条、889条、890条)。
○配偶者
○子(第1順位)
○直系尊属(父母または祖父母など・第2順位)
○兄弟姉妹(第3順位)
例)「配偶者に先立たれた子のいない一人っ子」に相続がおこったケース
配偶者に先立たれた子のいない一人っ子2.相続放棄により相続人がいないケース
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産を一切受け継がないという意思表示のことをいい、この「財産」にはプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も含まれます。
亡くなった方の財産がマイナス(債務超過)の場合に、相続放棄を行うケースが多くみられます。
相続放棄をした方は、その相続に関しては初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。
したがって、法定相続人全員が相続放棄をした場合には、相続人がいないことになります。
3.相続欠格・相続廃除により相続人がいないケース
法定相続人全員につき、相続欠格・相続廃除があった場合には、相続人がいないことになります。
①相続欠格(民法891条)
次の者は相続欠格として、相続人になることができません。
ア 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
イ 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
ウ 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
エ 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
オ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
②相続廃除(民法892条)
相続廃除とは、被相続人が、一定の事由のある遺留分を有する推定相続人について、相続から外すことを家庭裁判所に請求できる制度です。
一定の事由とは以下のとおりです。
ア 被相続人に対して虐待をしたとき
イ 被相続人に重大な侮辱を加えたとき
ウ その他の著しい非行があったとき
相続人不存在における手続きの流れ
相続人のあることが明らかでないときは、その相続財産は法人とされ、相続財産法人が成立します(民法951条)。
相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。
※2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正により、「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。
相続財産清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、「相続財産清算人を選任した旨」及び「相続人は一定の期間内にその権利を主張すべき旨」を公告しなければならず、その期間は6ヶ月を下ることができません(民法952条2項)。
「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」があったときは、相続財産清算人は、すべての相続債権者及び受遺者に対し、2ヶ月以上の期間を定めて、「その期間内にその請求の申出をすべき旨」を公告しなければなりません。また、この期間は、「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」の期間内に満了しなければなりません(民法957条1項)。
「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」の期間内に相続人としての権利を主張する者がいないときは、相続人の権利が消滅するとともに、相続財産清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができません(民法958条)。
この段階で、「相続人不存在」が確定します。
相続人不存在が確定した場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は特別縁故者の請求によって、清算後残存する相続財産の全部または一部を分与することができます。この請求は、「相続財産清算人選任の公告及び相続人捜索の公告」の期間の満了後3ヶ月以内にしなければなりません(民法958条の2)。
なお、「特別縁故者」とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めてきた者、その他被相続人と特別の縁故があった者をいいます。
相続人不存在のおそれがあるときは遺言書をのこしましょう
ご自身に相続人がいない、または将来的に相続人がいなくなるおそれがある場合であっても、遺言書をのこすことにより、大切なご資産が国庫に帰属することを防ぐことができます。
人生をかけて築き上げたご資産の行き先について、ご自身の意思を反映するために、遺言書を作成することは有効な方法です。
受遺者(資産を受け取る者)については、個人でも法人でも大丈夫です。
相続人がいない、または将来的に相続人がいなくなるおそれのある方で、資産を引き継ぎたい方がいる場合には、遺言書の作成について、お早めに司法書士等の専門家に相談されることをおすすめいたします。
※相続人の不存在により国庫に帰属する財産が、2023年度に1,051億円となり、この10年で3倍に増え、初めて1,000億円を超えました。配偶者や子どものいない単身高齢者は増加しており、今後も増え続ける可能性が高いものと予測されています。


